取材記事

俳優・奥野晃士氏が語る〝演じること〟の魅力。そして、静岡県舞台芸術センター「SPAC」とは?

みなさんは、グランシップの建物の東側にもう一つの玄関があって、中に劇場があることをご存知ですか?

それはSPAC(Shizuoka Performing Arts Center=静岡県舞台芸術センター)という、静岡県専属の劇団の舞台が観られる専用の劇場、静岡芸術劇場です。

SPAC曰く「文化の一極集中ではなく、地方から創造し、発信するヨーロッパ型劇場」なのだそうです。

 

静岡県舞台芸術センター「SPAC」を知っていますか?

静岡芸術劇場はとても小さな劇場で、俳優の息づかいまで聴こえてきそうな気がします。

しかし、古代や中世のヨーロッパでは、舞台上の俳優と観客がこんな距離で演劇を楽しんだのだろうと想像でき、まるで自分が当時のヨーロッパの劇場にタイムスリップしたような感覚を楽しめます。

専用の劇場はここだけではありません。日本平動物園と英和学院大学より少し上に舞台芸術公園があって、そこに野外劇場「有度」と、屋内ホール「楕円堂」があります。

静岡芸術劇場の様子(spac.or.jp)

 

とくに野外劇場では、月の光や樹々の葉擦れの音、虫の声に囲まれての観劇を楽しめます。

自然も含めた大舞台での物語世界はとても優美です。

どの劇場も一度は体験してみてください。

全国でも静岡県だけという専属劇団と劇場がある地でしか味わえないぜいたくなのですから。

>>SPAC公式サイトはこちら

 

【SPACの所在地】

 

毎年 GW前後の間ずうっと「ふじのくに⇆せかい演劇祭」という演劇の祭典が開かれます。

海外から一流の演劇人が集まって舞台を創るだけでなく、観客も全国から、海外から、この静岡の地に集まるのです。

演劇を通じていろんな国の文化が融合するときというのでしょうか。東京ではなく静岡で、そんなすごいことが行われているのです。

(残念ながら今年2020年はコロナウイルス感染予防のため、演劇祭は中止となってしまいました。)

 

そろそろ10月から舞台は再開されますが、さらに残念なことに、静岡芸術劇場はグランシップ改装中のために使えず、県内各地の会場で上演されることになります。

SPACという劇団がつねに身近で活動していることの良さは、もちろん鍛え抜かれた俳優さんたちの演技を目の当たりにできるだけでなく、素の姿の俳優さんたちと会話するなどの交流もできることです。

でも、それだけではありません。舞台美術、照明、音響、衣装といった舞台づくりに携わる専門技術をもったスタッフも常にいて、その仕事に触れられることです。もちろん広報の仕事や営業の仕事など、あらゆる仕事がここにはあるのです。

 

「おくのこうじ」さんという名前を耳にしたことありませんか?

俳優さんたちとの交流ができると書きましたが、それはSPACが市民、県民と積極的に交流しようと意図しているからなのです。

その企画の一つにリーディング・カフェという台本読み体験があります。

俳優さんが街に出て、SPACが公演予定している作品や作者について、そしてその作品のオモシロさについて、朗読を体験しながら、あらかじめ知ってもらおうというもの。

それを企画立案したのが「奥野晃士」というSPACの俳優さんであり、もっとも熱心に街へ出て市民と交流している人です。

 

そして奥野さんはそれだけにとどまらず、静岡の歴史を掘り起して一人演じる「歴史演談」もやっています。だから、歴史には詳しいのです。

リーディング・カフェは、俳優たちが本番前に台本の読み合わせをする雰囲気を一般の人たちにも味わってもらおうと考え出したもので、各地の飲食店やお寺など、人が集まれるところで催しています。

必ずしも芝居の台詞みたいに喋る必要はありません。

 

「人前でセリフを語るなんて私には出来ない!」そう言って引っ込み思案になる人ほど、最後には白身の演技をすることもあるし、私が「演劇のカラオケ」と称している通り、あくまで思いのまま、ありのまま、自分の読みやすいように読めばいい、たとえ棒読みでも声を出すことが大切なのです。

と、奥野さんは言います。

周りが芝居がかって読んでいると棒読みの方がかえって目立ち、だんだん自分も台詞っぽく喋るようになったりするから面白いですね。

 

とにかく台本読みは小声でボソボソ言うわけにはいきません。離れた席にいる人にも聞こえるように大きな声でハッキリ喋らなければなりません。

最初は照れていた若者が、読み終えると「すごく気持ちよかった」と喜ぶことが多いのです。

日頃、大きな声で喋ることなどないので、声を出すことが身体と心を開放してくれるのかもしれません。

 

IT化が進み、何でもPCやスマホで済ませてしまうことが多くなると、ますます声を出したり、人と話をする機会がなくなります。

ちょっと危機感を抱いている人はぜひリーディング・カフェを体験して、お腹から声を出してみてください。

奥野さんは「ウチのところでもリーディング・カフェやってー」「歴史演談やってー」というラブコールに応えてくれます。

 

広いスペースは必要ありません。何人か人が集まれる部屋があれば可能です。

簡単にお茶とお菓子を用意し、雑談タイムを設けましょう。

なんといっても俳優さんたちと市民との交流の場なので。

 

奥野晃士氏が提唱する「動読」

リーディング・カフェや歴史演談を通じて積極的にファンと交流してきたある日、奥野さんはファンの言葉から、自分のやっていることが朗読とは少し違うものであることに気づきました。

そして、日ごろ冗談半分に言っていた「私のは動読」という言葉が、にわかに説得力をもって来たのでした。

そこで、奥野流の表現方法として「動読」を世に広めることにしたのです。

 

まずは、静岡市内に動読倶楽部ができました。

今は妻子が暮らすスイスに拠点をおき、仕事があるときに帰国しているので、奥野さんが帰静すると動読倶楽部の稽古が開かれます。

じつは現在、奥野さんは『動読のススメ』という本を執筆中です。

演劇初心者の人にも「動読」ってどんなものかを解説したり、ワークショップもあるので、声を出すトレーニングの本として利用してもらうことができます。

そして、この本はわがTAMARANPRESS社から出版されます。どうぞ楽しみに待っていてください。

 

動読のベースは、SPACの初代芸術監督、鈴木忠志氏の「スズキトレーニングメソッド」にあります。

自らの動読の理論だけでなく、スズキトレーニングメソッドの奥野流解釈も『動読のススメ』という本の魅力となっています。

ここで、鈴木忠志氏という人のことをご紹介しておきましょう。

 

SPACの初代芸術監督・鈴木忠志氏とはどんな人?

劇団早稲田小劇場の拠点を富山県利賀村に移し、かの地を演劇の村にしたことでよく知られる演出家です。

氏は演劇の世界の巨匠です。ケンブリッジ大学が刊行している「20世紀を主導した演出家・劇作家21人」の中にアジア人としてただ一人選ばれていることからも分かります。

なぜ巨匠になったかというとスズキトレーニングメソッドという身体の訓練法ゆえです。世界の演劇人の多くが取り入れています。

 

そんな世界的巨匠は、旧清水市の出身なのです。

SPACの創立が1997年で初代芸術監督に就任したのは、1999年に氏が提唱者の一人であるシアターオリンピックスという世界的演劇の祭典を静岡で開催したからです。そのためにグランシップが建てられました。

2000年にSPACの俳優となった奥野さんは、まさにスズキトレーニングメソッドで鍛え上げられたのです。

 

免疫細胞を活性化する演劇

奥野さんに動読の魅力を尋ねました。

「動読と言いますが、じつは動いてはいけないのです。激しい感情を表現するときには身体を動かさず、心は穏やかにするのです。だから、動読に入る前にはアタマもココロも無にするトレーニングをしなければならないんです」

禅の道だけでなく、茶道、華道、武道・・・日本の、およそ〝道〟とつくものには共通している「無になる」修行。

日本人独特の哲学的思考なのかもしれませんね。

 

「それから、登場人物を演じるということはイメージの世界で非日常体験ができるんです。初めてのイメージに接すると、人間は脳が活性化して免疫力が高まるって言われてるんですよ。よく旅行すると元気になるなんて言う人がいますが、あれも初めて見る風景が脳を活性化してるからだと」

 

日常に疲れている人はとくに、他者を演じるという非日常体験をしてみるべきですね。

かつて、私の自宅で奥野さんの歴史演談を催したことがあります。10畳ほどの狭い座敷に20人以上がぎゅうぎゅう詰めになって、奥野さんの話を

食い入るように聴いていました。雑談も面白いので、みんな2時間ぐらいは集中できるのです。

 

そんな中に人間好きなわが家の猫がちょびちょび入ってしまうので、途中で私は猫を連れて家の前の広い畑へ逃げました。

そうしたらびっくり。ずっと先の戸を開け放ったわが家の座敷から、奥野さんの声だけが聴こえるのです。何を話しているか分かるほどに。

鍛えられた身体による発声というのはこういうものなのだと教えられた夜でした。

 

前述のとおり、コロナ禍以降、世はますますPCやスマホを頼る生活が加速しています。

だからこそ意図的に声を出しましょう。

声を出すという機能は喉だけが動いてできるものではありません。

 

肺活量や腹筋、肋骨や背骨などなど全身運動なのです。身体も脳内も若さを保つためには声を出すことが必要です。

それも大きな声でハッキリと話すことです。

仕事でも、よく聴こえる声で明瞭に話す人の方が信頼感を得られるのではないでしょうか。

  • この記事を書いた人

Hirano tokiko

1956年1月23日生まれのもうすぐ65歳。 生まれも育ちも静岡市だが、両親に似て遠州人気質。 本業は書籍や雑誌の編集人で〜す。

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