インタビュー

【元高校教師がまとめた英語指導の本】小学生に英語を教える人のための「トラの巻」

今年、私が編集制作を手掛けた自費出版の本が『小学生に英語を教える人のためのトラの巻』という、英語の参考書です。

著者は、長年、公立高校の英語の教師を務め、静岡高校を最後に定年退職後は自宅で英語塾を開いて、トータル60年、のべ1000人の生徒に英語を教えてきた、本多學さんという静岡市葵区安東にお住まいの先生です。

もう80歳を超え、自分の英語指導の集大成を本にしたことで今年、英語塾を閉めました。

 

小学3年からの英語教育

本多先生がこの本を書こうと思い立ったのは、今年度(令和2年4月〜)、小学3年生から英語の授業が義務化され、担任の先生が教えることになると知ってからです。

授業や塾でのレッスンを通じて、どうやったら生徒たちが英語を好きになるのか苦心してきた本多先生は、ただ教育開始の低年齢化を図ることで、小学生のうちから英語嫌いの生徒が出てしまったり、悪い癖が身についてしまうことを恐れたのです。

そして英語教育に慣れない担任の先生の戸惑う姿を想像したのです。

そこで、小学生に英語を教えるなら、まずこれだけを教えてください、という非常に具体的な英語指導の方法を書いたのがこの本です。

 

文部科学省の指導要領

小学3年生からの義務化を決めた文部科学省も、じつは本多先生と同じような考えを打ち出しているのです。

英語を覚えさせるのではなく、英語を好きにさせる教育でなければならない。

そのためには、子どもたちが日常生活の中で見聞きすること、自然に興味をもつこと、楽しんでいることなどを英語で会話できるようにする。

勉強として無理に教え込むようなことはしてはならないーー。

だから、担任の先生という選択が生まれたのでしょう。子どもたちの日常や、それぞれの性格や個性を一番熟知しているのが担任の先生だからです。

ただ、文部科学省の、この理想論に基づく指導要領を、いったい何人の先生が理解し実践していけるのでしょうか。

具体的な指導までは、なかなかできないのではないでしょうか。

 

なぜ英語の勉強は大変なのか

本多先生は冒頭で書いています。「日本語は世界言語の孤児である」と。

英語と日本語とでは、日常生活で使う単語数がまったく違うのだそうです。日本語が2万語もあるのに対して、英語は5000語程度とも言われているとか。だから英語はほとんどが多義語なのだと。

多義語とは、一つの単語が複数の意味をもつことです。

英語の勉強に欠かせない英和辞典で、私たちは一つの単語を調べながら、いろんな意味を覚えさせられますよね。

そこが英語の勉強の面倒くさいところでもあります。

そして一番の問題は、英語と日本語とでは発音が大きく異なることです。

そして文章構造も異なると言います。

だから、世界の他の国々の人が覚えるよりもずっと、日本人は努力しなければならないのだそうです。

本多先生は、何度も何度も繰り返し訓練しなければならないことを強調します。

 

子供たちが英語を好きになるには?

英語を好きになるようにさせるには、どうすればいいのでしょう。

英語らしい発音と、美しい書き方を教えれば英語が大好きになると、生徒たちを指導してきた経験から本多先生は確信しています。

そして、発音記号の代わりに、自ら考案し、実際に生徒たちの指導に使ってきた「音声表記」で全編発音の仕方を表しています。

たしかに、小学3年生の9歳頃が英語学習を始めるには最適なのだそうです。が、最初に身についてしまった悪い癖は直すのが大変です。

だからこそ、小学生のうちに正しい発音と書き方を繰り返し覚えて、英語を好きになっていれば、その後の中学、高校とむずかしくなっていく英語学習も勉強しやすくなるというもの。

ただし、本多先生は繰り返し繰り返し努力して覚えるさせることこそが教育であると考えているので、この本では、どのぐらいの時間をかけて覚えさせたらいいのか、学習の目安も書いてあります。

 

余分なことですが・・・

私は英語教育に口をさし挟める人間ではありませんが、一言余分な話をさせてください。

30年近く同じ本づくりという仕事に携わって来て、また入社後の20代から長唄三味線のお稽古という趣味を経験して来て、私はよく人に「人生は1000本ノック」という話をしています。

わが家はみな野球好き。

とくに父と兄が生きていた頃は二人とも故野村克也監督が大好きだったので、野球の見方は野村理論でした。

野球の練習は100本ノックをやった選手より1000本ノックをやった選手の方が確実に上手くなります。

よく才能だとか天才だとか言いますが、場数を踏んだ人にはかないません。

あのノックには単に守備が上手くなる訓練というだけではない要素が含まれているからです。

ピッチャーから投げられた球をバッターがどのタイミングで打つと球はどちらに、どう飛ぶのか、転がるのか、何度も経験しているうちに見えてくるのです。

そうすると、予測する守備ができるようになります。たしかに天性の才能や運動神経をもった選手はいます。

が、ただ闇雲に反射神経だけで守備をやろうとするのが天才ではありません。

よく天才ほど練習をすると言われますが、敢えて言うなら、天才はその才能ゆえに、うまくいかなくて嫌になるということがなく、練習男になれるではないでしょうか。

野球が上手くなるためには100本のノックより1000本のノック。

それと同様、音楽も練習と演奏経験で場数を多く踏むことが上手くなる秘訣です。

私は三味線の稽古をしない人間だったので偉そうなことは言えませんが、周りの人たちを見て来て、そして下手くそゆえに長年やってきて感じているのです。

また、稽古熱心な先輩たちがよく言っていました。

「テープを聞いて、譜を見て、毎日お稽古して覚えた曲はすぐに忘れちゃうけど、お稽古場にいて人がお稽古する曲を何度も耳で覚えた曲は、なかなか忘れないものだよ」と。

身体で覚えるものは、効率よく身につけることはできないのですね。

仕事も場数です。

依頼や相談があった仕事はけっして断らず、やってみること。

むずかしい面は相手に譲歩してもらい、相手が切望していることは多少無理をしてでもやる、という駆け引きなど、場数を踏めば、さまざまなケースで対応できる自信がつきます。

そうすると相手の希望に沿った仕事ができるようになり「あの人は、相談したことを必ずやってくれる」とか「必ず形にしてくれる」という信頼が得られます。

仕事をしていく上でいちばん大事なのが信頼です。

それを得るためにはどんな依頼が来てもやれるという自信をもつこと。自信をもつためには1000本ノックなのです。

もちろん1000本ノックの方が100本ノックより失敗の数も多くなります。

が、そのおかげで、どうすると失敗するかの勘も身につくし、失敗を恐れない大胆さも身につくのです。

だから、本多先生が言うところの英語学習は繰り返し訓練することが必要という意味はよく分かります。

 

自費出版の売り方

さて、自費出版の大変なところは、販売まで自分でやらなければならないことです。

まず、作った本人は宣伝しにくいという難点があります。

私も本づくりをしていていちばん苦痛だったのが、新聞広告などの宣伝文句を考えるときでした。

ましてや、イベントや講演会で本を売るとき、どうやってアピールすればいいのか苦労しました。

今でこそ、自己PRが大切とされ、若いうちから鍛えられていますが、私たち世代は控えめが美徳と教えられて来ました。

80代という本多先生の世代はなおさらでしょう。

そして、出版社→取次店→書店という流通ルートに乗せれば自動的に新刊配本されるものを、どこの誰かも知らない人間が、本を売ってくださいと数ある書店にお願いに歩かなくてはならないのです。

しかも、本が売れないと言われる昨今、初めて見聞きする本を預かって販売してくれるような書店は少ないでしょう。

『小学生に英語を教える人のためのトラの巻』も、どうやって書店に置いてもらおうか悩みのタネでした。

 

新聞の影響力

ところが、11月27日の静岡新聞に、本多學先生が自費出版したという記事が掲載されたのです。

事前に記者から「問い合わせ先はどこにしましょうか」と尋ねられ、本の内容については本多先生の電話番号、本の購入については私、平野の携帯電話の番号にして欲しいとお願いしました。

が、いつ掲載されるかを知らなかった私は、朝いちばんから携帯電話にかかってきた注文の電話で知ることとなりました。

それから夜まで、注文の電話は続きました。本多先生のところにも注文の電話が何本も入りました。

そんな状態が数日続き、書店にも問い合わせがいくつも入ったとのことで、書店側からも注文を受けました。

いまさらながら、新聞記事の影響力には驚かされました。

とくに取材記者が英語教育に興味のある人で、本多先生の考え方に共鳴して書いてくださったことも説得力があったのだと思います。

私は、出版社時代の経験から、郵送では別途送料がかかってしまう旨を申し訳なく説明しました。

が、みなさん「いいですよ」と即答する方ばかり。結局、郵便局で確認してレターパックのライトで送ることができたので送料は370円になりました。

定価2100円と消費税10%で210円、送料370円でしめて2680円。

そして、郵便局で発送作業をしながら気がつきました。

今の時代、通販で買い物する人がこれだけ増えているのだから、送料が加算されることに違和感はないのかも、と。

これからは、本の郵送を大前提に出版していってもいいなと思いました。

 

おばあちゃんに最敬礼

ところで、驚いたことがあります。

注文のお電話をくださったある女性が「私は90歳を過ぎてるおばあちゃんなんだけど、これから英語を勉強しようと思うの。

どうかしら、その本で勉強できるかしら」と言うではないですか。

びっくりするやら、感心するやら。で、本多先生に報告しました。

すると、な、な、なんと、本多先生にかかってきた電話にも90歳を超えて英語を勉強してみようと思うという方がいたと聞いて、またびっくり。

いまや、平均寿命が延びただけでなく、実年齢も若くなったんだと、そしてみなさん、人生に前向きなんだと思い知らされました。

私もうかうかしていられません。

 

本屋さんに行こう

さて、最後に、今回の本の販売で分かったうれしいニュースをお伝えします。

書店に納品に行ったところ、いま本が売れているのだとか。

コロナの影響で、みなさん、本を読む時間ができたのでしょうか、それとも本自体が見直されているのでしょうか。

それと『鬼滅の刃』ブームも影響しているでしょう。

リモートが増え、ますますPCやタブレットに頼る生活にはなりましたが、HPやブログを見慣れ過ぎて、知識や情報を得るものを別に求め始めたのでしょうか。

書店の店内には、各出版社が工夫を凝らした本がいっぱい並んでいます。

最近はビジュアルでお洒落な本ばかりですね。圧倒的な数が並ぶ書店は、あたかもアートスペースのようです。

その中に身を置くと、インスピレーションが湧くというか、自分のアート感覚が目覚めるような気がします。

これからクリスマスプレゼントにする本探しが楽しそうです。

 

『小学生に英語を教える人のためのトラの巻』

B5判並製160ページ+発音特訓用カード16ページ、CD2枚付

定価2100円(消費税210円)

  • この記事を書いた人

Hirano tokiko

1956年1月23日生まれのもうすぐ65歳。 生まれも育ちも静岡市だが、両親に似て遠州人気質。 本業は書籍や雑誌の編集人で〜す。

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